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2025.01.11 |

あのひとのママに会うために-嫁姑と戦争の序章-

  部屋があんまりにも整理がつかない。何故かと考えたら、ものが多すぎるからだと判明した。とにかくそこらじゅうのものを捨てることにした。捨てて捨てて捨てて捨てていたら、ずいぶんとすがすがしい部屋になった。わたしの心もたいへんすがすがしい。バッタだったら共食いをはじめそうな、殺戮にいたる過密部屋とはようやくおさらばである。
 整理と言うのは、結局のところ捨てるということらしい。人員整理とか、身辺整理とか。”整理”というと、たんに並べなおし、みたいなやわらかい感じがあるが、本質のところで物事を整理しようとしたら、切り捨てるということでしかないらしい。それをしないと何も変わらない。大事なような気がして捨てられずにいた原稿やキーホルダー、ひとからのお土産のつまったゴミ袋をみながら感慨にふける。大切なものを捨ててしまうということは、さみしさの後ろがわに案外とさばさばした心地よさがあるようだ。大事なものや大切なものは、やっぱりその分わが身に抱えておくのも重たいらしい。捨てた瞬間の、無責任にもふわっと軽くなるあの開放感はやみつきになる。軽くなった分、どこか別のところへふらふらと飛んでいけそうな気がする。変わりたいと人が願うとき、いろんなものを投げ捨ててしまうのは、なるほどこのせいかと思う。
 昔、わたしが大学に入ってまもないころ、お世話になった人を本格的に切った。彼がわたしを乗せようとする手のひらが、もうあんまりにも小さくなってしまっていたからだ。そのおだやかな関係性に安らぐことは、わたしの望むところではなかった。 業の深い人間ですみません、という謝罪の意味は彼には理解できないだろうから、言わなかった。ぽっかりとかなしく、ぽっかりと軽い。無責任なうえに、ずるいもんだよなぁと思う。

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2009.11.25 | Comments(0) | Trackback() | 未選択

フタコブラクダの背に乗って

 「あー、もう残業たまんねー」と言った人に、「まぁ、ライフワークバランスの思想が浸透すると、残業とかなくなるらしいけどね。だからオレなんかいまのうちに、残業できるうちに仕事覚えとかないとと思って繁忙期は平日7時間残業で、土日も出社とかしてるけどね」といった人がいた。
 たまんないほうは忙しい部署の公務員で、残業しまくりなほうはエンジニアである。
 公務員は別にエンジニアにむかって言ったわけではなくて、集団の中で、冗談ぽくして愚痴ったまら、通り魔のようにかみつかれた。カミツキガメのような男だなぁと、思ってエンジニアを見ていた。
 実際、エンジニアのアグレッシブさやひたむきさはすごいし、ないものねだりの犬子さんとしてはかっこいいと思う。思うが、別にそのアグレッシブさを人に押し付けなくてもいいだろうに。押し付けなければもっとかっこいいのに、それが分からないこの男は、残念な奴だと思う。
 いつもはけっこうな気遣いさんで人当たりのいい公務員は、その反応をスルーした。かるく背けた横顔が、ずいぶんと固かった。あ、公務員はこのエンジニアを切ったな、と思った。
 エンジニアは激務でずいぶんと痩せたらしい。首の筋のあたり、たしかにやせてこりこりこりしていて、甲羅からのびた亀の首に似ている。就職して狷介さがましたようで、前よりずっとつまらないことで、すぐに噛みつくようになった。噛みついて引っこんで、噛みついてひっこんで。亀のように、臆病に。こうやってこの人は、一人になっていくのだろう。
 噛みつかれないだけの距離をとりながら、エンジニアをながめる。誰に踏まれることもなく、彼の影法師が黒々として地面に落ちている。亀のような亀は猛々しいが、亀のような人はしんどいんじゃないかと思った。

2009.11.23 | Comments(0) | Trackback() | 未選択

うまくもなくまずくもない最中をもらう

 もういいかげん、このうんこな生活をなんとかしようと、必死に7時ごろふとんから這い出す。目が開かないまま、ふらふらと壁にぶつかりつつ、ついでに転びつつ、ベランダに出て、洗濯機をまわそうと思ったらまわらなかった。かなしくて洗濯機をガンガン殴る。どうしようもないものを、どうして、どうしょうもないなぁと笑うことができないのか。殴られる洗濯機もかなしかろう。


 書きっぱなしの小説とかすこし整理します。
 マンガをアップしたいのだけれれど、スキャナーとフォトショが死んでる上に、ペンタブに逃走されました。 日ごろの行い、なんだろうか。問題が解決したらアップしーたーいー。
 あと、うっかり今月の1日が裸のランチは一周年でした。ご来場くださったみなさまありがとうございました。お気に召しましたら、これからもよろしくお願い致します。  犬子

2009.11.23 | Comments(0) | Trackback() | 未選択

ざりざりざるざれずるずるる

 どっから間違えていたかといえば、駅から出た瞬間から間違えていたんだと思う。気がついたら目的地から二駅ほども離れたところにいた。なんの疑いもなく逆走していたらしい。何の迷いもないと言うところに、どうしようもない根深さを感じたりしたが、もう慣れっこなのであまり気にしないことにする。反省ばかりしていては、生きてゆけない。
 ふとももをあらわにしたおねえさんやら、顔のどす赤いおっさんが肩を組んでうろつく夜の繁華街を、せっせと歩いてもと来た駅をめざす。橋を渡りきったあとの大きな交差点で、尋常でなく叫んでいる人がいた。
 微妙に悪げなおっさんに、ゆるく腕をひねられた若者が「もう許してくださいよ!もう金、ほんとにないんすよ!たのむからイチコ(?)だけは取らないでくださいよ!おねがいっすよ!!」と絶叫していた。腕をつかんでいるおっさんはにやにや笑いを浮かべ、仲間らしい3人が夜空にひびく馬鹿笑いをしていた。酔っ払いかと思ったが、若者の顔は普遍的な歪み方をしていた。屠殺されることを知っている牛のような顔だった。
 見てしまった、と私は思った。思いながら、しかし目をそらして通り過ぎた。一団が見えなくなると、後ろを同じように黙って歩いていた爺さん二人組みが「なんや、ちゃんとチンコはとついとるやろうに」と言って、例の男たちと同じように笑った。見てしまった、とわたしはもう一度思った。思ったが、早足に駅へ向かい、そのまま家に帰った。目的地にはつかないままだった。

2009.11.22 | Comments(0) | Trackback() | 未選択

踏み抜く覚悟はありやなしやと

 ここのところずっとオフだった。オフ。いかんねオフ。
 緊張感のない生活というか、だらだらと自分の中のガーナチョコのようなねっとりとした渦に身を任せている感じ。外界と自己の感覚がどんどん希薄になっていく。尿意を覚えてトイレに行って、おしっこしながら、ああ、いま、放尿しているわたしは、トイレじゃなくて、尿でもないなとか、そういうことで、やっと自己を確認する。
 どんどん逸脱していく感じがする。みんなが曲がるはずのコーナーを曲がりきれずに大きな楕円を描きながら振り出していく。そろそろ帰んなきゃなぁ。オンじゃオン。スイッチをオンに切り替えて、社会との接続を再開しなければ。
 手始めに時計を買ってきた。丸くて赤い輸入雑貨の目覚まし時計。机の上において、いつでも見れるようにしておく。そうすれば、わたしだけの空間に、私以外の、断固とした、社会の、時間軸がはいってくる。…はずだ。
 元気がないと勘違いした母親に、全身脱毛したら?といわれる。曰く、外見が変わると自分に自信ができるからということで。それに、しばらく人前で脱ぐ予定もないしなー、とかえす。あ、これか、これが駄目なのかと、言ってから思う。男だけじゃなくて異性だけじゃなくて、人一般、他者から見張られていると言う感覚。これが、自分の形を認識、形成するのだ。オンというのはそうやって、社会と言うクリップボードの上に、”自己”という駒をのせることだ。オフ、オフのとき私は”自己”という形態をとっていない。拡散してしまっている。収縮せねば。収縮。そうやって自己の密度をあげるのだ。硬くつよくなくてはフィールドに立つこともできない。
 力が弱って、人間のかたちをとっていられなくなって苦悩する妖怪のはなしをむかし読んだ気がする。わたしはヒト属ヒト科の生まれながらの人類だけど、人間やってるのは楽じゃない。

2009.11.20 | Comments(0) | Trackback() | 未選択

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